「あなた、バレンタインチョコもらったの?」
「え、ああ、うん。」
「誰から?」
「……大奥ちゃんから」
「大奥? どこの大奥だよ」
「うちの猫。」
主人公の名前は田中(たなか)と言います。
田中さんは猫を飼っていることで有名な世間でも有数の読者数を誇る作家、ちくわです。
猫好きの彼女ができたことを知り合いに伝えたら、名前をバレンタインデーのチョコに見立てて「大奥」ってあだ名をつけられたそうです。
バレンタインデーになると、いろいろな女性から手作りのチョコレートをもらうちくわ。
でも、ほとんどは猫好きのファンからで、彼女はいません。
そんな孤独なバレンタインデーの夜、田中さんが猫を抱いて部屋で過ごしていたところ、不思議な出来事が起こりました。
猫がふと飛び跳ね、ソファの下にいたものを取り出してきました。それは、猫用のチョコレート菓子でした。
「何これ? 猫がチョコレート食べるんか?」
と困惑する田中さん。
そのとき、ドアがガチャリと開き、彼女が現れました。
「田中くん。……チョコ、受け取ってくれますか?」と彼女は微笑んで言いました。
思わず、「猫、食べるとダメだぞ」と言おうと思ったけど、それ以上彼女に邪険なことを言ってしまうのは気が引けて、涙目で黙って受け取りました。
「……ありがとう」
気まずい沈黙が続く中、彼女はついに口を開きました。
「私、実は猫アレルギーがあるんですよね……でも、猫が嫌いなわけじゃなくて、かわいいと思ってたから猫アレルギーの治療してたの。そして、ちくわさんの小説で猫好きになって……その……」
彼女が言葉を濁し始めたとき、田中さんはましたたかに気がつきました。
「ああ、これがあの噂の……!」
ちくわと言えば、人間と猫をモチーフにしたラブロマンス小説で有名です。
普段から猫とたわむれながら、小説を生み出してきた彼が、まさか自分が書いた小説の世界に飛び込んだように出来てしまったようです。
それを見てしまった彼女も、やるせない表情でグッと胸を抑えて言いました。
「ちくわさん……ごめんなさい……でも……だから、こうして会えたんですよ……田中くん、好きです」
彼女の抑えた感情が顔に浮かんできました。
田中さんは心を乱されていましたが、同時に、不思議な気持ちにもなりました。
それはまるで、小説を読むときのように、ストーリーが次々に広がっていく楽しさ、そしてドキドキが止まらなくなる興奮、そして優しさで、自分の中で溢れ出していました。
そして彼女の前で二人は抱き合い、胸を張って言いました。
「私達の物語、まだ始まったばかりだよ。」
■この小説のちくわ様自己採点 感動的:7 笑える:2 悲しい:2 夢がある:9 怖さ:0. 合計点:20
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