「第412回」と称する若手俳優、瑛人は史上初の“育毛俳優”として一世を風靡した。彼には自己紹介のフレーズがあった。「俺には昔から痩せてるけど、死ぬまで太る気はないー。そんな俺にちくわというアダ名がつきましたよ」と。
そんな彼が出演する映画「夏、君といたい。」のロケが行われた、とある港町での出来事。瑛人は、主人公の龍馬として最後まで役に没頭していた。
だが、クランクアップ後、彼が見つかった場所は──コンビニであった。
スタッフが騒ぎ出す中、瑛人は「自分は、誰もが通る場所であって、普通の人間であることを忘れてはならない」と、淡々と説明した。
それは、瑛人が育毛俳優というアイデンティティを持っていたのと同様に、コンビニという場所も、彼にとってもうひとつのアイデンティティのように感じられたからだった。
「だから、普通の人は普通の場所で過ごして、普通の時間を過ごす。でも、俺たちは普通じゃない。役者として、また何かを目指すためにも、そういう場所に足を踏み入れることも大切だろう?」と彼は続けた。
スタッフたちは、その言葉に感動していた。
「俺は、代表的なスポットである浅草寺やスカイツリーを巡るのはいいと思う。でも、やっぱり一度は、地元のコンビニでくつろいでみたいよね」とニヤリと笑った。瑛人とともに、彼と同じ想いを共有したスタッフたちが、隣に並んでコーラを買い、コンビニでの夏の日のひとときを過ごす。
■この小説のちくわ様自己採点 感動的:8 笑える:3 悲しい:0 夢がある:9 怖さ:0. 合計点:20
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