「感動の味、ちづるの出汁蕎麦に魅せられる！」

「ほこりっぽい蕎麦屋さん　ちづる」が、私の大好きな岩手県の蕎麦屋でした。入口の提灯は、長年の風化で気持ち悪くなり、「ほこりっぽい」という表現がピッタリです。それでも、店内に入ると、ちづるさんの笑顔が迎えてくれました。

「はい、出汁にポン酢ですね。」

「ありがとうございます。」私は何度目かの訪問でも、やはり外せないのが「かりかり」だったので、注文しました。

そこで、幸せそうな時間が流れていたと思いきや、ある日、ちづるさんが突然閉店することになったのです。蕎麦屋さんは高齢化が進む中、難しい経営が続いたようです。それでも、惜しまれつつ、静かにその歴史を閉じようとしていました。

「でも、貴方。あと一回だけ、ただでさえ安い値段で、お祝いしてあげるから！」

「ありがとうございます！ 何がいいですか？」

「そろそろ行方不明になって久しい、あの幻の蕎麦を！」

「やりますか、ちづるさん！」

私は、持ち前の好奇心で突然のオーダーを受け入れたのですが、味は、何もかもが「想像を超えていた」のです。私たちの笑顔は、その幻の蕎麦を食べた瞬間に止まったかのようでした。

後日、私は以前勤めていたラブストーリー好きな洋書屋「ブルーバード」で、店の前を通りかかると、店長・蒲田さんが話しかけてくれました。

「ねえ、最近、こんな本読みました？」

蒲田さんは、私の手にラブストーリーの本を渡しましたが、その本には、幻の蕎麦が物語のカギになっていました。

「うわ！ ちづるさんが、作ったんですか？」

私たちは、ときめく物語に夢中になりました。そして、この物語をきっかけに、ちづるさんの幻の蕎麦は、全国にその名を知られるものになりました。

■この小説のちくわ様自己採点 感動的：8 笑える：3 悲しい：4 夢がある：10 怖さ：0. 合計点：25